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Selfishly

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貴方がライバル! 11~14


★ このお話の前作話は こちらからどうぞ。↓
『貴方がライバル1~5』
『貴方がライバル6~8』
『貴方がライバル9・10』





・・・・・『貴方がライバル!』 act11・・・・・




 

「アルっ! 久しぶり」
玄関の扉を開けた途端の満面の笑顔と挨拶に、
アルフォンスも思わず口元が綻んだ。
「兄さん! 相変わらず元気そうで良かったよ」
互いにそう言葉を掛け合いながら、二人はヒシッと抱きしめあう。


・・・・・ そろそろ青年の域に入ろうという男二人兄弟が、
久しぶり――と言っても、せいぜい2ヶ月ぶり位で、ここまでの大げさな
再会のパフォーマンスをするものなのか?
いや、果たして必要なのかどうかさえ疑問に思う。
が、男兄弟だけでなく、姉妹もいないユーヘミアには判断がつき難い。
取り合えず、新しい師匠への印象を悪くしたくない一念で、押し黙って
二人の再会の抱擁を静観し続けた。


「兄さん、准将がまた無茶を強要したりとかしてない?」
心配そうに大好きな兄の顔を覗き込んで、アルフォンスは一番の懸念を口にする。
「おう! それは大丈夫だ。前回のがかなり堪えたらしくてさ。
 結構真面目に守ってるぜ」
明るく返す兄の言葉に、アルフォンスはホッと安堵した表情と・・・
少々、失望した表情も過ぎらせたのだが、エドワードには気づけなかったようだ。
「そう・・・・・。ならいいんだけど・・・、もし何か困った事をしでかすようだったら、
 隠さず僕に話してよね!」
異様に力の入った言葉にも、エドワードは「アルは相変わらず心配性だなぁ~」と
思いやり深い弟の言葉に、嬉しそうな表情を見せてくる。

以上の会話が、相変わらず抱きしめあった状態のまま交わされていくのに、
ユーヘミアは居心地の悪さに、小さく空咳などして自分をアピールしてみた。

それは功を奏したようで、気づいたとばかりにエドワードが弟に回していた腕を離し、
ユーヘミアの方へと向き直って、紹介をしてくれた。

「御免、紹介が遅れて。
 こいつが話してた俺の弟で、アルフォンスって言うんだ」
自分より頭半分高い弟の肩に手を置いて、そう紹介してくるエドワードの
表情は誇らしげだ。
「こんにちは。始めまして、アルフォンスと言います」
エドワードに回していた両の手の内、片腕は回したまま離さず
紹介されたアルフォンスという人物は、にこやかにユーヘミアに挨拶をした。
エドワードのような清冽な印象を与える容姿ではないが、彼も十分整った造形をしている。
穏かな金茶の瞳や、緩やかなカーブを描く口元も、人好きのする容貌だ。
「は、始めまして! ユーヘミア・ウォーホールと申します。
 今日から宜しくお願い致します」
礼儀に則った挨拶を返したユーヘミアに、「こちらこそ、宜しく」とにこやかな笑みと
挨拶を返すアルフォンスは、年下の筈なのに貫禄さえ感じられる。
物怖じしないはずの彼女だが、どうにも彼にはエドワードの時のように
高飛車に出れない何かを感じ取って、借りてきた猫状態になってしまう。

「で、悪いけど時間が押してるから、・・・後のこと頼むな」
時計を気にして、エドワードがそうアルフォンスに告げると、
アルフォンスは途端に残念そうに表情を浮かべるが、渋々ながらエドワードに
「判った」と返事を返した。
アルフォンスからの許可を貰ったエドワードはユーヘミアの方へと向き直って、
彼女にも言葉をかける。
「じゃあ、昨日話してた通り、俺らは明日の昼には帰ってくるけど
 それまでアルに教わって、頑張っとけよ」
笑いながら伝えられた言葉に、ユーヘミアは一瞬不安げな表情をするが、
瞬きを数回して不安を消し去ると。
「OK! 戻って来た時には、あっと言わせるような料理を
 マスターしておくからね」
と、健気な返事を伝える。
「その意気、その意気。じゃあ、明日のランチは皆でユーヘミアの手料理を
 頂こうぜ」
アルフォンスに向かってそう告げると、アルフォンスは微妙な微笑を浮かべて
エドワードに返す。
「兄さん、ゴメン。明日は昼前には大学のメンバーと研究発表を聞きに
 行かなきゃいけないから・・・さ」
アルフォンスの返事にエドワードは目を瞠り、その後済まなそうな表情を浮かべた。。
「そっか・・・、忙しい中ゴメンな。
 この借りはいずれ返すからな」
「何言ってんの、兄さん。
 僕と兄さんの仲で、そんな水臭い事言わないでよ」
優しい瞳でエドワードを見つめながら、アルフォンスが微笑んだ。

――― そう、この借りは、ちゃんと准将から取り立ててやるんだから ―――
そう呟く心の内側では、悪人面のアルフォンスの笑みが全開だった。

「じゃあ、俺とあいつと3人分だな。
 ユーヘミア、美味いやつを頼むぜ」
「任せといて」
と威勢の良い返事に笑い返したのだった。


細々した連絡事項を話していると、玄関の呼び鈴が鳴らされ
エドワードは慌しく家を後に出て行く準備を始める。
「じゃあ、アルフォンス頼むな。
 ユーヘミアも頑張れよ。怪我だけは気をつけろよ」
そう念を押して、踵を返すエドワードをアルフォンスは柔らかく引き止める。
「兄さん、いってらっしゃい。
 無茶されないようにね」
そうエドワードの耳に囁くと、そのまま頬にキスをする。
「ん・・・、行ってくる」
アルフォンスに告げられた言葉の意味を察して、頬を染めながらエドワードも
アルフォンスの頬にキスを返した。


その光景を離れて見ていたユーヘミアはと言うと・・・。
当然、アルフォンスがエドワードに囁いた言葉も聞こえてないので、
エドワードが頬を染めた理由も判らない。
彼女の目には、中睦まじい恋人同士の別れのシーンもどきに見えていた。
だからユーヘミアは、薄く頬を染めて
両の眼を真ん丸に見開いたまま、硬直していたのだった・・・・・。



その後リビングに腰を落ち着けた二人は、お茶をしながら
今までの料理や習ったことのおさらいを話し合い始めた。

「へぇ~、兄さん結構、きちんと教えてるようだね」
ユーヘミアの話に、アルフォンスが感心したように言う。
「うん。いつもきちんとメモとか書いてくれてるし、説明も凄く
 判りやすいわよ」
最初はぎこちなかった彼女の態度も、話をしていくうちに段々と打ち解け、
改まっていた口調も砕けて話も出来るようになってきた。

―― そろそろ、いいかな・・・――
アルフォンスは心の内でそんな呟きを落として、穏かな笑みを浮かべつつ
話題を切り替えていく。

「そう、良かったよ。・・・兄さん、根は悪くないんだけど
 ちょっとぶっきらぼうというか、がさつな面があるから、
 年頃の女の子にちゃんと教えれてるのか、不安だったんだ・・・」
そう告げながら、困ったような笑みを浮かべれば、ユーヘミアが慌てて首を
大きく横に振ってみせる。
「ううん!! そんな事、絶対にないわよ!」
語気も強く否定してくるユーヘミアに、アルフォンスは目を瞠って驚いたような表情を
作って見せる。
「た、確かに最初は・・・私も、何て生意気な奴なんだろうって、思ってたの。
 ――― で・・・も、それは私も態度が悪かった・・・・・って今は反省してる」
躊躇いがちにも自分の非を認める言葉を告げるユーヘミアに、アルフォンスは
少し首を傾げて怪訝そうな様子をした。
そのアルフォンスの仕草に、エドワードの事を誤解されているのではと
ユーヘミアは更に言い募る。
「エド・・・エドワードは、悪くないのよ。
 ここに乗り込んできた時、私の頭の中には・・・そのぉ、言葉は悪いんだけど、
 彼は――― マスタング准将を誑かした張本人・・・そんな風な思いで
 頭が一杯で・・・・・」
ユーヘミアは自分の言葉が、肉親から不快を買うのではないかと
ちらちらとアルフォンスを気にかけるように視線を送ってくる。
アルフォンスは大丈夫と伝えるように、微笑を絶やさずに小さく頷いて返してやる。
それに安堵したのか、彼女は小さな吐息を吐くと、続きを語り出した。

「彼は・・・・・、あるがまま。
 自分の目の前の人に対して、自然に相対してるだけなんだって」
 
そのユーヘミアの言葉に、アルフォンスは本心から少しだけ目を瞠る。

「礼儀を守る人には、それを尊重して守り。
 失う者には、例えその人がどれだけ世間の地位が高くても、それ相応しか返さない。
 ・・・・・・それでも、エドはちゃんとそんな人の言葉にも耳を貸してくれる。
 私だって・・・、自分が無茶を行ってるしやってる事は解ってたの。
 でも、あの時は確かめなきゃ気が済まない! とか思い込んでて・・・。
 でも、そんな常識の無い私にも――― 彼は、ちゃんと意見を聞いてくれた・・・。
 
 だから・・・・・・・、エドは全然悪くないの」

そう告げてくるユーヘミアの瞳の中に、アルフォンスは仄かに色付く蕾を見つける。
まだ今は小さな蕾だが、いずれ大輪の花と成すだろう、蕾を・・・。

アルフォンスは暫しの間、黙考するように視線を落す。

そしてその視線を上げた時、その金茶の瞳の中に愉しげな色を浮かべて
こう告げたのだった。

「そう・・・・・、君がそうまで言ってくれて、兄さんの努力も報われてると思うと
 僕も嬉しいよ。

 でも、ユーヘミア。

 兄さんは・・・・・・・・・駄目だよ?」

悪戯っ子のような笑みを口の端に浮かべてそう告げると。
彼女は暫し茫然としたような表情になり、その後、顔を真っ赤に染めたのだった。







・・・・・ 『貴方がライバル』act12・13・・・・・


 注!!:12話はR18指定です。
 18歳以上の方のみ反転してお読み頂けますように。m(__)m



「っあ・・・・・ ちょ・・ 待っ・・・・・  ヒィアッ!!」

息も整わない内に、鋭く突き上げられて声が上がる。
お預けを食らわせていた分、激しくなるだろうとは思っていたが
まさか、ここまでとは・・・・・・。

エドワードは手をベッドに付いて支えていた上半身が、思わず崩れて突っ伏してしまいながらも、
何とかロイに静止の言葉を続けようとしていたが、突き上げが激しくなれば
口から出る言葉は喘ぎ声しか発せられなくなってしまう。

「あっ・・んぅ あっ、あっ、あっ、あっぁぁぁーーー!」
断続的な突き上げに、忙しない呼吸と共に声は間断なく上がり続ける。
もう体を起こす事は諦めて、目の前の枕を縋るように握り締める。
腰を高だかと抱え上げられた姿勢で、背後から腰を使っているロイは、
エドワードを犯し続ける事しか頭にないようだった。

いつもならエドワードの体を慮ってや、感じさせようと愛撫に熱をいれる男が、
今はがむしゃらに腰を打ちつける事だけに熱中している。
欲望を剥き出しに――― とは、今のロイの様子そのものだろう。

放って置かれたままになっているエドワードの分身も、ロイ同様に張り詰めていて辛いのだ。
触れてもらえないなら、自分で・・・と思っても、激しい突き上げを受け止めるには
何かに縋っていないと、とても無理な状況なので手も伸ばせないままだ。
シーツに擦り付けれれば少しは楽になるのだが、腰を掴んだまま離さないロイの所為で、
それも阻まれ、中途半端に煽られる苦行が続いている。
後ろだけで達く域にはいけてないエドワードには、なかなか苦しい。

「エド・・・・  エドワード・・・ あっあぁっ・・・・」
自分の名をうわ言の様に呼び続けながら、感極まったように唸り声を上げる。

――― まるで、獣に犯されてるみてぇ・・・―――

飛びそうな意識を何とか持ち堪えながら、エドワードはそんな感想を思い浮かべる。
しかも、自分にしか懐かない―― 野生の獣。

エドワードの中のモノが質量を増す。
そろそろ逐情が近いのだろう、動きもあれで全開じゃなかったのかと
信じれない思いを込上げながら、舌を噛まないようにとシーツを噛み締める。

「くっ・・・・!! ぅっつっっっーーーー」
ロイの唇からまるで苦妙のような音が漏れたと思った瞬間、
エドワードの体内に熱い飛沫が打ち付けられた。
熱湯をかけられた者のように、エドワードの体が跳ね、背が限界まで反り返り
声無き咆哮を放つ。
その後ぐったりとシーツに沈みこむ体を、ロイは最後の残滓まで注ぎ込まないと
気が済まないと言うかのように、ブルブルと胴震いをさせながらエドワードの
内部に自身を擦り付けている。
ヒクリ ヒクリ と体が跳ねるのは、反射だ。
今のエドワードには、指一本さえ自分で動かす気力はないのだから。




ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ

と荒い息を吐き出しながら、漸く気が済んだのかロイが、
うつ伏せになっているエドワードの上に覆いかぶさってきた。
最高級のベッドは、エドワードに負担のないように二人分の重みを柔らかく
受け止めてくれる。

激しかった鼓動が収まっていくのが、汗ばんだ互いの体から伝わってくる。
 
トクリ トクリ トクリ

と重なって揃い始める鼓動が、充足感を満たしていく。

「・・・・・・・すまなかった」
ポツリと謝罪を吐いて、ロイがエドワードに負担を与えないようにと
体をずらし、その腕の中へとエドワードを抱え込む。
鼻頭が触れ合うほどの近さで覗き込んでくるロイの瞳の中には
申し訳無さと、喜びが同居している。
エドワードは苦笑しながら、ロイの額に張り付いている前髪を横に流してやりながら。
「ちっとは、気が済んだか?」
と訊ねてやる。
さすがに自分の今日の性急さには気恥ずかしいのか、ロイは気まずげに視線を逸らせて、
「・・・少しだけは」と、それでもなの返答をした。
「少しだけかよ。続けてやっといてさ」
ロイの返答にエドワードが呆れたような、怒ったような表情を作って
そう告げながら、ロイの鼻を抓みあげてやる。
フガフガと鼻を鳴らしながらも、ロイは意見を曲げようと言う気はないのか、
更にと言い募ってくる。

「仕方ないだろ。1週間だぞ! 1週間。
 その間、君の中に全然射れさせて貰えなかったんだぞ。
 一度や二度で、満足するわけがないだろうが!!」

力説しながら自分の鼻を抓んでいるエドワードの手をとる。
そして、夜会でダンスを申し込む紳士の様に、エドワードの手の甲に
愛しげなキスを落して、握りこむ。

そんなロイの仕草に、思わず頬を染めてしまう初心なエドワードの反応が
ロイの目を愉しませているのを、本人は判らずにいる。
思わず動揺した自分を誤魔化すように、エドワードはぷいっと顔を背けながら
負けずに言い返してくる。
「っても! 入って来て、いきなりはないだろ。
 俺にも色々と考えがっ!」
抗議の声を塞ぐように、ロイが唇を重ねてきた。
「・・・・・!?    ふぅ・・・・んぁ・・・・」
開いていたエドワードの口内への侵入は容易く、不満の言葉もろとも
吐息さえ吸い上げる程の、深い口付けを仕掛けてくる。
一瞬、体を強張らせたエドワードだが、口付けの熱が籠もり始めるのと平行して
ゆっくりと体から力が抜けていき、先程は回せなかった背中へと腕を伸ばす。



 *****

午後からの半休をもぎ取っていたロイが、そこに到着したのは
時刻としては既に夕方に近くなっていた。
軍議が長引いているとの知らせで、エドワードだけが先に指定の場所へと
送迎されてきたのだ。

市街から少し車で走った郊外に佇む瀟洒な洋館は、老舗の名も高いホテルで
敷地内の門の前で、エドワードは自分の格好を少々、後悔し始めていた。

「まじかよ・・・・・」
車内から窺える庭園も、国有数の私有地の庭園でも指折りなだけある見栄えだ。
てっきり市内のホテルのどこかに入るだけだと思っていたので、
普段着のまま出てきてしまった自分を酷く後悔した。
が、ここまで来てしまっては着替えに戻るわけにもいかず、
門前払いをされないことを祈りつつ、玄関へと向かう車内で大人しくしておく。

が、エドワードの杞憂は必要なくなった。
車はそのまま玄関へと向かうかと思えば、庭園の行く筋もある道を曲がって
更にホテルの敷地奥へと走らせているのだ。
ゆっくりと5分ほどかかって、ホテルの建物を迂回した先には、
自然を模して立てられた木立の先に、隠れ家を思わせる雰囲気で佇む一軒の家が見えてきた。

普通の民家のように見えて、実はその家がかなり手が込んだ作りなので
車から降り立って見上げたときに気づく。
建物に使われている木材1つを見ても、かなりの高級な木材が惜しげもなく使われ、
扉に至っては、よくこれだけの1枚板があったもんだと感心させられる樫材だ。

呆気に見上げているエドワードの横に、静かに近付いてくる人影がある。
多分、エドワードが着くのを待っていたのだろう。
エドワードが視線を向けるまで話しかけてこず、少し離れたところで
静かに立ち止まった。
「えっ・・・と?」
訊ねるように視線を向ければ、手本のような綺麗な礼をしてみせ
控えめな会釈を向けてくる。
「本日はようこそいらっしゃいました。
 こちらはこの家の鍵でございます。
 何かご入用な物がございましたら、中にございます電話の内線でお伝え頂けましたら
 すぐにご用意させて頂きますので」
そう告げながら差し出された鍵を受け取る。
「中のご案内も出来ますが?」
との丁寧な申し出に、暫し考えるが首を横に振った。
「いや、いいよ。ありがとうございます。
 判らない事があったら、また連絡させてもらうんで」
そのエドワードの言葉に、綺麗な礼を返してその紳士は立ち去って行った。
不要に詮索をすること無い対応に、ここへの宿泊者は所謂、お忍びで来る者が
多いという事だろう。
名も尋ねず、そして告げずに、鍵だけ引き渡して去っていく。
それがこの担当の決まりごとなのかも知れない。

木立の中の1軒家。無用心なようで、実はそう見せかけてあるだけの、
細部にわたっての警護と配慮がされている。
ここに来る途中に、飼い犬を散歩させているような人達が見れたが
あれは警備班なのだろう。
連れていた犬も、飼い犬のように甘えた処が無く毅然としていたから。

中から見渡す外の風景も、自然を模していてもどこか細工を感じれるのは、
狙撃や侵入者を考えた上での設計だからだろう。
「手が込んでるよな」
と思わず洩らした感嘆の声は、ホテル側にも当て嵌まるし、
ここを選択した人にも当て嵌まる。
多分、ロイの我侭に付き合わされて手配したのは、信頼たる彼の副官だろう。

ロイが来るまでの時間潰しにと、家の中を探索する。
こじんまりとした家だから然程時間はかからないと思っていたが、
なかなか興味深い造りで、思わず熱が入ってしまった。
1階の中央には、キッチンとリビングが併用の部屋が最新のシステムで配置されていた。
部屋自体が小さめなのは、使用の意味合いが少人数想定だからだろう。
書庫には質の良い本が並べられており、分野もさまざまで思わず手を伸ばしそうな
タイトルのものがあった。さすがに錬金術関連はなかったのだが。
遊戯室にも小型ではあるがかなり高級だと見て判るビリヤード台やらキューが
壁に並べられているし、ダーツもある。
浴室は面白い事に地下半階になっていて、日の光が天窓から降る様な構造だ。
これなら無防備な姿の時に狙われる可能性も低いだろう。
広めの浴槽と浴場は、癒しの場を全面に作られリクライニングソファまで
置かれている。
2階には主賓室がベッドルームと間続きで1部屋だけだが
その分、かなり贅沢な空間と、・・・・・大きなベッドが幅を利かせている。
ベッドの大きさを目の当たりにして、誰も見て居ないと言うのに
照れくささを感じつつ、エドワードは階下へと戻って行った。


お茶をしながら、リビングに置かれていた装丁も立派なご案内本を眺めながら、
ずらりと並んでいるルームサービスのメニューに目を奪われてしまう。
一流のレストラン顔負けのメニューがコースから単品や、デザートまでと
厳選され明記されている。

「そういや、夕飯はどうすんのかな・・・」
設置されているキッチンにもある程度の食材や飲み物が用意されていたし、
ワインセラーや、カウンターバーもあるから、ここで作って食べるのも良さそうだ。
そんな事を考えていると、こちらに近付いてくる車の音に気づく。
「着いたのかな?」
出迎えに行こうかと考えている間にも、玄関が開けられる音がして
こちらに近付いてくる馴染みの気配を感じた。
ガチャリと些か乱暴な開き方で入って来た相手は、やはりロイで
エドワードは目線だけ向けて軽く挨拶をする。
「よぉ、お疲れさん」
そう声をかけてはみたが、ロイは切羽詰った表情のまま襟元を緩めながら
返事もせずにエドワードの方へと一直線に近付いてくるだけだ。
「ロイ?」
そんな相手の態度にエドワードが怪訝そうに見上げた時には、
目の前に立つ相手は、既に上着を脱いでソファーに放り投げていた。
「おい、皺になるだろっ」
エドワードが注意の言葉を言い終わるより前に、ロイがエドワードに被さってくる方が
早かった。
エドワードの座っていたソファーに押し付けるようにして、ロイが貪るように
口付けを始める。前戯のような他愛無いものでなく、いきなり情欲を叩きつけるような
激しい口付けに、エドワードも驚いて思わず身を引くのだが、その分ロイが進んでくるから
密着度合いが激しくなるだけだ。

ちょっと待てと言うように、肩を押していた手は絡め取られて、指まで組み合わされて
動けない。
組み合わせてないロイの片手は、エドワードをより深く味わおうと言うのか
顎を掴んで上向かせたまま力を緩めないでいる。
「ふっ・・・・んっ    ン、っふ・・・・・・・・」
混じり合わせた部分から、はしたない水音が止まらない。
その音を耳にしていくうちに、エドワードの芯にも情欲の炎が灯されていく。

ストイックとロイに言われるが、エドワードの身体も無垢なままではなくなった。
先に進めばどれほどの快楽があるかを知ってしまった身体では、炎が灯されれば
若い分、我慢が出来にくい。
それが判っているからこそ、ロイも性急にでもエドワードを煽るのだ。

舌で舌の裏を撫で上げられると、ゾクリとした感覚が背筋を這い上がる。
「ふぅ・・・・・ぅん  」
まるで甘えるような声が鼻から抜ける。
それを合図に、ロイは顎を掴んでいた手を離してエドワードの首筋から胸元へと
撫で下ろすと、エドワードの着ていたシャツのボタンを数個外して
その状態で手を差し込んでエドワードの胸元を嬲ってくる。
「ちょぉ・・・ンン ま、待てよ・・・・ひぁんっ」
気づけば激しい口付けは終わっていて、今のロイは執拗にエドワードの胸元狙いを定め、
差し込んだ手は片側のエドワードの胸を弄り、もう片側の立ち上がり始めた小さな果実を
シャツ越に唇に挟んでは、しつこくすり合わせているから、堪らない。
「あ・・・・ン あぁぁ やぁ・・・」
両側からの快感は小波のようにエドワードに押し寄せては、意識を翻弄させていく。

ベトベトにしたシャツからエドワードの果実が、
紅く熟れているのが透けて見えるのに満足したのか、
ロイは唾液で濡れそぼる口元を舌で拭う。

そのロイの仕草が、エドワードの視覚には淫らに映りすぎて
ズクリと下半身に刺激が広がる。



そんなエドワードの状態などロイにはお見通しだった。
ロイはほくそ笑みながら、もう一息と再度情熱籠めて口付けを仕掛ける。
エドワードはその気になり始めると、瞳の色が濃くなるのだ。
普段は彼らしい純度の高い光を瞬かせているのに、欲望が昂り出すと
どろりと粘度の濃い琥珀色を宿してみせる。
その色は、まるで欲望が凝縮したような深い彩を見せて、ロイを魅了する。
ロイの無体をどこまで許容してもらえるかは、そのエドワードの瞳の色で判るのだ。

今もけぶるような瞳に、琥珀色を湛えてロイを見つめている。
本当ならエドワードにも感じ入って欲しいのだが、今は取りも直さず
自分の膨れ上がる欲を納めたくて仕方がないのだ。

「エドワード・・・済まないが、先に・・・」
上擦る声でそれだけ告げると、ロイは性急にもエドワードのズボンへと手を伸ばす。
抱きかかえるようにして脱がせ終わると、座った姿勢のエドワードの足元に膝まづいて。

「あっ・・・・あぁーーー」
エドワードの頭が反らされて、驚きと歓喜の混じった声が上げられる。
半勃になっていたエドワードのソレを口内に含むと、追い上げるためだけに
舌と手を使って煽り立てる。
ジュポジュポと音が響くほど激しい口淫に、エドワードのロイの髪に埋めている指に
力が籠もる。片足をソファーに押し上げて大きく開かせた足の間では、
忙しなく動き続ける黒髪の頭がある。
押し上げている足の太腿を更に押し腰を浮かせるようにして、ロイはその奥へと
エドワードの零したもので塗れそぼる手を這わせる。
少々強引に1本目の指を捻じ込むと、エドワードの腰が魚のように跳ねる反応を返してくる。
咥え込んだ口元から溢れる雫を掬っては塗りこむ。
動きがスムーズになった所で、2本目を。
そして、まだ窮屈なソコへと3本目を押し入らせると、間髪いれずにエドワードの
良い場所を突き上げ始める。

「!! だっーーーーめぇ!  ひぃあぁぁぁーーー」
長くたなびく嬌声を上げながら、程なくしてエドワードがロイの口内で果てた。
ぐったりとソファーに身体を預けたエドワードを見守りながら、ロイは自分の下穿きのベルトに
手をかけると、取り出したモノに口に含んでいたエドワードのモノを吐き出して、
丹念に塗りこんでいく。
自分のモノも、既に臨戦状態だったので準備は直ぐに完了した。

放心状態のエドワードの身体は柔らかくロイの思うがままの体勢になってくれる。
ソファーから少しずり落ちたような体勢にし、腰を穿ちやすいように持って行くと
そのまま一気に貫いたのだった。



瞬間息を止めたエドワードの喉は、次に先程よりも更に大きく高い声を迸らせる。

「あああああああっぁぁぁーーー!!!!」
エドワードの見開かれた瞳から、ぶわっと涙が溢れ出す。

そのエドワードの状態に、申し訳ないとは思いつつもロイは納めたモノを
打ち付ける為に腰を使い始める。
ベッドよりも弾力が硬いのか、打ち付ける反動が大きく跳ね返って
ロイの侵入をより深くさせていくのが予想以上に良い効果を生む。

   ギッシ ギッシ ギッシ
   ユッサ ユッサ ユッサ

と重い音が上がる上では、不自然な姿勢をとらされて思うように動けないエドワードが
揺さぶられ続けている。
自分の意志で自由に出来る声だけは、頻繁に上げられていて
それさえもがロイの興奮を煽って、夢中にさせていく。

1度目の挿入はロイ自身も余り長く保たず、すぐに限界が近付いてくる。
身体を屈ませ、強引にエドワードに口付けを落としながら前に回した手で
エドワードのモノも追い上げてやる。
言葉にならないエドワードの嬌声も荒い吐息も、全て自身に取込みながら
ロイは欲望の命じるまま、エドワードの最奥へと自身を解放した。





 *****

それからどこでどうなったかエドワードに判らないまま、気づけば2階の寝室に
入っての2度目が再開されていたのだった。

もしかしたら、1度目との間に少し気を飛ばしていたのかも知れない。
2度目は更にロイの欲望のままの行動だけで、気づけば突き上げられている最中で、
終わったと思った瞬間には体位を入れ替えての背後から、抜かずの二発め・・・。

つくづく、タフな男だと・・・・・呆れと諦めの混じった気持ちで
ロイの気の済むようにさせておいたのだった。



が!! 立て続けに4度目ともなると、エドワードの気力も底をついてくる。

「なぁ・・・   なぁってば!!」

今も、止めなければそのまま再開しそうなロイの様子に、エドワードは
少々焦りながら、身体から引き剥がそうと試みている。

「・・・・・なに?」
不満そうな声で返事を返しながらも、胸元に落している顔を上げようとしない。
それにはさすがにエドワードもカチンときて。
「なに? じゃないだろうが!」
両手でロイの頭を掴むと、ぐぐぐいっと顔を上げさせた。

「どうしたんだ、急に?」

エドワードの瞳の色を窺って、金色なことを見て取ると
ロイは渋々ながらも身体を離して、エドワードに問いかける。

「どうしたも、こうしたもないだろ!
 あんた、ここにきて立て続けに何回やる気だよ。
 こんなペースでやられりゃ、俺が死ぬっつーんだよ」

プリプリと不機嫌そうなエドワードの様子に、ロイは部屋にあった時計に目をやる。
着いた時間が夕刻前位だったから、あれから2時間ほど経ったのだろうか。
・・・確かに、2時間で3回も立て続けでは、エドワードも辛いだろう。
自分も、そろそろ喉が渇いて仕方もないし。

ここはエドワードの機嫌を損なわないためにも、一旦インターバルを
設けた方が良いだろうと判断して、ロイは優しく微笑みながら
エドワードの身体を労わる様に優しく抱きかかえ直した。

「すまない・・・。ついつい嬉しくてね。
 無理をさせてすまなかった」
そう告げながらロイは謝罪の気持ちを籠めて、エドワードの髪を撫でてくる。
「やっ・・・・・、判ってくれたんなら、いいけどさ・・・」
ロイが下手に出れば、エドワードも強くは為りきれない。
その人の良さが、ロイに付け入る隙を生むのだが、彼の性分だから仕方がないのだろう。

「エドワード、お腹が空いたんじゃないか?」
そう訊ねられれば、かなりの空腹を実感する。
「・・・・・めちゃ、減った・・・」
ロイが来るまで眺めていたメニューが頭に浮かんでくると、更にひもじくなってくる。
「そうだろうね。じゃあ、そろそろ夕食でも頼もうか。
 出来上がるまで、お風呂にも入りたいだろうし」
そのロイの提案に、エドワードはコクリと頷いて賛成を示す。

動けないエドワードの為に、リビングからメニューを持ってくると
エドワードの望むまま電話で料理を告げてやる。

風呂には二人で一緒に入った。
「誓って、何もしない」とロイに約束をさせて、まだ動けないエドワードを
抱いて入りに行く。
後始末を嫌がるエドワードを説き伏せて、耐え忍ぶ声を愉しみながらも、
風呂場ではそこまでで我慢しておく事にする。

が、なかなか反響の良い声を聞かせてもらえたのに気を良くして、
2度目の風呂の際には、折角設置されているリクライニングソファーを
ぜひとも活用させてもらおうと心に決めたのだった。






翌日。
昼頃まで起き上がれなかったエドワードを抱えて、二人がそこを後にしたのは、
ユーヘミアと約束していた時刻を少々回ってしまっていた。

寝不足なのは二人とも同様のはずなのに、ロイは清清しい笑み全開で
エドワードを抱きかかえて颯爽と車に乗り込んで、自分で運転して帰り。
エドワードはと言うと、ロイの慎重な運転でも微小に揺れる振動に始終
眉を顰めたままだった。

・・・・・ こんな事なら、分散してもらった方がマシ・・・・・

エドワードがそう思ったとか、心の中で嘆いていたとか。


ご機嫌での帰り道、帰宅した家では待ちくたびれているユーヘミアと、
米神に怒りのマークを貼り付け待ち伏せているアルフォンスが居ること等、
鼻歌を歌って運転している馬鹿亭主には想像がついていなかっただろう。














・・・・・ 『貴方がライバル』act14 ・・・・・





エドワードとロイが狂態を演じる少し前の時間。
アルフォンスは真っ赤になったユーヘミアの顔を眺めていた。

「なっ!! そ、そんな・・・そんな訳ないじゃ・・ない」
顔中紅潮させたまま、ユーヘミアはしどろもどろにアルフォンスに言い返してくる。
「・・・・・そう?」
そんなユーヘミアと対照的に、アルフォンスは悠然とした態度で含みのある笑みを
口の端に浮かべて、ゆっくりとカップに口をつけながら返事を返してやる。
「あっ、当たり前でしょ!?
 なんで私が、エドの事なんか!」
ムキになって言い返してくるユーヘミアに、アルフォンスは詫びるような笑みを
向けて告げる。
「そうだよね。君はマスタング准将のような大人の男性がタイプなんだものね。

 兄さんは、お子様で我侭だし、気の利いた褒め言葉の一つも出来ないような
 無粋な奴だしさ。繊細さに欠けるから、何でも大雑把で女性の機微にも疎いしで
 優しい言葉一つ掛けれない人間だものねー。
 マスタング准将みたく、女性にもてるわけないよね」
そんな風なことを、大袈裟に両の手の平を上に向けて肩を竦めて見せながら語る。
エドワードのことをそんな風に悪し様に言われ、ムッとしたのはユーヘミアの方だ。
「・・・・それって、酷すぎない?」
「そう? でも兄さんって昔から乱暴者でさ、粗忽者なんだよ」
呆れた風な口調で、表情に嘲笑を浮かべてアルフォンスが言えば。
「そんなことはないわよ!」
とユーヘミアから強い反発が返ってきた。
「た、確かにエドは准将みたいにスマートじゃないかも知れないけど・・・!
 でも、優しいとこも一杯あるし、思いやりだって凄くあるわ!
 この前だって、食器を壊した時に慌てて飛んできてくれて、
 で・・・全然、怒らないで1番最初に私の怪我が無いかを心配してくれて・・・。
 
 弟のあなたが、エドのことをそんな風に言うなんて!」
許せないと瞳に険しい輝きを示しながら、ユーヘミアがアルフォンスを
睨みつけてくる。
そんなユーヘミアにアルフォンスは、ふっと肩の力を抜いて優しく、温かみのある
微笑を向けた。
「ありがとう・・・。兄さんの優しさって判り難いんだけど、君がちゃんと知ってて
 くれてるようなんで―――安心したよ」
そう告げたのだった。

そんなアルフォンスをマジマジと見つめ、漸くユーヘミアは自分が嵌められたことに気づいた。
「もう!・・・・・根性悪ね、あなたって」
拗ねたように頬を膨らませてそう言ってくるユーヘミアに、アルフォンスは
「すみませんでした」と再度謝った。
「でも、何でわざわざ・・・エドの事をあんな風に・・・」
ユーヘミアの戸惑いに、アルフォンスは口の端に笑みを浮かべたまま
「確認の為に」と短く答たえるだけだった。

その後、まだ釈然としていないユーヘミアが聞きたそうな様子を見せていたが、
アルフォンスは、「そろそろ、夕飯の準備にかかろうか」と話を逸らして
元々呼ばれた本題に入った。


エドワードの教え方は、素人にも判りやすい方法で行われており、
高度な調理法より、同食材をシンプルな方法で何通りか作れるようにするのに
重点が置かれていた。
アルフォンスはそれを基に、野菜の切り方や、皿への盛り方例を教えてやる。
それだけでも、料理に華やかさが増すし、彩りも見栄えが良くなる。
一生懸命に横で料理に取り組んでいるユーヘミアを盗見しながら考える。

彼女がエドワードに惹かれ始めているのは、間違いないだろう。
ロイ・マスタング准将のような憧れの対象から、身近な好意的な相手に
気持ちが傾いていくのは当然だ。
しかも、相手はエドワードなのだ。
この国で、1番手玉に取りにくいだろう男を陥落させた程の人間だ。
同性で、歳も離れ、色々とリスクの多かったエドワードを、ロイはそれでも
手に入れようとして、軍の権力まで行使して掴んだ程の執着度合いを
みれば判る。
そんな人間に惹かれるなという方が愚かだろう。
今日のアルフォンスの言葉で、ユーヘミアの中にも自覚の芽生えが生まれたはず。
それが大きく、広く育つまで、然程時間はかからないとみた。

・・・・・ また兄さんと、楽しい同居生活が出来るかなぁ~♪・・・・・

アルフォンスが投げた種が、どんな騒動を起こすかを思うと、知らず知らずの内に
笑みが零れてしまうアルフォンスであった。






 *****

「着いたよ」
隣に蹲る人影に優しく声を掛けて、ロイは運転席を降りると
エドワードに手を貸そうと回り込む。
寝不足と、過激な運動に疲弊してるエドワードが、緩慢な動きで身体を起こすと、
開けられた扉から車外に出ようと足を動かす。
「・・・・・ふぅ」
そろりと身体を動かすのにも、口からは思わず溜息が零れてしまう。
「大丈夫かい?」
そんなエドワードに気遣うような言葉をかけてはくるが、声音には嬉々とした感情が
滲み出ている。そんなロイに文句の一つでも浴びせかけようと、差し出された手を掴み
キッと顔を上げたエドワードの表情が、ロイの後ろから見えた人影に綻ぶような笑みに一転した。
「?」
不思議そうにエドワードを窺っていたロイが、次のエドワードの言葉に身を固まらせる事になる。
「アル! 待ってくれてたんだ?」
弾むような声で呼ばれた名前を聞いた途端、ロイの表情が強張って固まってしまう。
「お帰り、兄さん・・・・それと、久しぶりですね、准将?」
前半は愛しみに満ちた声で、後半は氷柱のように冷えた声で伝えられてくる。

動きの止まったロイの横を、エドワードがさっさと通り過ぎていくと
ロイの後方に佇んでいるだろう相手へと歩み寄っていく。
差し出した手が空虚な場所へ投げ出されたままでも、ロイの身体は動けない。
頭の中では、ぐるぐると混乱した思考が渦巻いている状態だ。
―― な、何故、アルフォンスが・・・?
   今日はもう戻ってると聞いたのに。
   ま、拙い時に・・・――
が、そのままで止まり続けているわけにもいかず、今度はロイがのろのろと
身体を起こして、向きを反転させた。

振り向いた視線の先では、エドワードの身体を労わるような素振りのアルフォンスが
見える。アルフォンスが話しかけているのに、エドワードは困ったような表情で苦笑して
一言二言、言葉を返しているようだった。
その後、アルフォンスが掛けた言葉に頷いて、エドワードは家へと入る為に
玄関へと足を向けはじめて行った。

――― エドワード! 待ってくれ。置いていかないでくれ ―――
ロイの驚愕を言葉にすると、そんな感じだったのかもしれない。
どこぞの国の抽象画のように、顔を歪ませたまま口をOの字に開け、
両頬を手の平で挟んで叫びたいのを我慢して、ロイは自分に向けられる
冷たい視線に晒される。

「ア、アルフォンス。久しぶり・・・だね」
ぎこちなく引き攣るような笑みを何とか作って、ロイは自分の義弟に挨拶をする。
「ええ、お久しぶりです。マスタング准将。
 ――― あの時、依頼ですよね」
ニッと口の端を上げて笑みを作っているアルフォンスの表情が怖い。
最後のフレーズを、やたら区切って強調しているのにも含みを
ヒシヒシと感じさせられる。
何を言われるかと身構えながらも、義兄としての尊厳を損なわないために
出来るだけ平静さを装って、感謝の言葉を伝える。
「こ・・・今回は、無理をお願いしてしまって、すまなかったね」
「ええ、本当に」
愛想も素っ気もない即答に、ロイが鼻白む。
「そのぉ・・・・・またこの礼は改めてさせてもらうよ」
「ええ、今回も期待してますよ。

 なにせ僕たちの学部はお金を食いますからね。
 予算は他よりは多いとは言え、必要になる機材も最新までは手が出ませんし」
臆する事無いアルフォンスの態度に、ロイは小さく嘆息すると
「希望があれば・・・」と問いかける。
そのロイの返答に、アルフォンスはニッコリと邪気ない笑いを向けて話を続ける。
「そう言えば・・・。今、僕たちが使ってる遠心分離機、古い所為か時々止まっちゃって
 困ってるんですよね。
 最新のがカタログに出てたけど、あれって改良が進んでて性能が格段に良いそうなんですけど、
 ――― 高価すぎて、僕達の学部如きではとてもとても・・・」
「・・・・判った。手配しておこう」
疲れた様に声のトーンを落して応えたロイに満足したのか、アルフォンスは軽やかな足取りで
兄を追うべく家へと踵を返して行った。


これで、数日後には匿名希望でアルフォンスの学部に高価な研究機材が
届く事になり、ロイの貯めているお小遣いが、一部目減りする事が決まったのだった。



 *****

「じゃあ、兄さんの分は僕が部屋に運んで食べさせるから」
それだけ告げると、アルフォンスはウキウキとした足取りで
キッチンから出て行った。

戻ってユーヘミアに遅れた詫びを告げていると、入って来たアルフォンスに
強引な形でエドワードは寝室へと連れ去られてしまったのだ。
やれ飲み物だ、昼食だ、デザートにおしぼりと、さっさと用意を始めると
アルフォンスは他の二人には見向きもせず、エドワード専用の寝室へ行ったっきり
戻る気配もない。


「二人で食べる始めましょうか・・・」
妙に覇気のないロイの様子が気にはなるが、ユーヘミアは誘われたまま
遅くなった昼食を取る為に席につく。
「これはなかなかの出来栄えだ。上達されましたね」
机に並べられた料理に素直に感心して、ロイが褒め言葉を告げてくる。
「ありがとうございます。・・・師匠の腕が良かったからなんですけど」
謙虚な礼の言葉を告げながら、当たり障りない会話をしていくが
双方とも心ここに在らずの風情のままになる。

そのうちに会話も続かなくなり、二人は黙々と食事を片していく。

ユーヘミアは目の前で、疲れ切った表情で食事をしているロイを盗み見しながら考える。

幼い頃から、彼の勇猛さは聞き及んでいた。
武力のみだけでなく、統治にも長けた彼の功績は
巷では広く認識されており、次々と新聞に取り上げられ続けている。
そんな彼に憧れ、小さな情報も隈なく集めては喜んでいたのだ。
ロイ・マスタングという男性は、ユーヘミアの理想の男性像にと刻まれてから
随分と長い年月が経っていた。

そんな憧れの人との二人っきりの食事。
昔なら舞い上がってしまうような、夢の出来事が現実に経験できている。
と言うのに・・・・・。

――― どうして、こんなにも気が乗らないのかしら・・・―――

気になる事といえば、空いている席の空間。
いつもなら、忙しい准将が不在でもその席に座って一緒に過ごしてくれていた存在。
そこがポカリと空いてしまっている空虚感が、今のユーヘミアの心境
そのもののようで・・・。


「どうかされましたか?」
そのロイが掛けたきた言葉で、ユーヘミアは自分が物思いに浸っていた事に気が付かされた。
見てみれば、前に座っているロイは既に食事も終わらせている状況だ。
「あっ・・・、す、すみません。
 食後のコーヒーでもお淹れしましょうか?」
慌てて自分の持っていただけになっていたフォークを置こうとすると、
ロイはそのまま食事を続けるようにと伝え、自分で飲み物の用意を始めた。
―― 私って・・・気がきないわよね・・・――
思わず消沈しそうな思考を振り払うようにして、急いで残りの食事を食べ始めてしまう。
―― エドなら、こんな事絶対にないのに・・・――
そんな風に考えていると、「どうぞ」と声を掛けられてユーヘミアの前に
淹れ立てのコーヒーが置かれる。
「あ・・・ありがとうございます」
その礼に、ロイも無言で会釈だけ返して席に座るとコーヒーを飲み始める。
そんなロイを見ていると、無意識なのだろうがチラリチラリとエドワード達の
居る部屋の方を気に掛けている様子をしては、彼もまた物思いに耽っているようだった。

「・・・あ、あのぉ。エドの容態って、そんなに悪いんですか?」
遠慮がちに話しかけられた言葉に、ロイは目を瞠ってユーヘミアに視線を向ける。
彼女には、自分とエドワードが軍の関係で出掛ける事になったと伝えてあるから、
今のエドワードの状態に思い浮かぶ処が無いのだろう。
不安がらせないようにと、ロイが小さく微笑みを作って応えてやる。
「いいえ、心配するほどではありませんよ。
 多分、夕方頃には起き上がってくるはずです。
 ――― ちょっと、立て込んでたもので・・・寝不足が原因なだけですから」
気まずさは綺麗に隠して、ロイがそう答えると、ホッとしたように彼女も
表情を緩める。
「良かった・・・。
 でも、――― エドと弟さんって、凄く仲が良いんですね」
聞こうか聞くまいかと思いながらも、疎外感を感じている者同士
思い切ってそう話しかけてみる。
ユーヘミアがそう聞いてみると、ロイは苦虫を噛み潰したような表情で。
「ええ、もう本当に仲良しですよ」
と苦々しく吐き出すように返事を返してきた。
その返答に少しだけ驚かされたが、考えてみれば自分もあの兄弟には
随分と驚かされているのだ。
「ご両親がいないって聞きましたけど」
「ええ、そうです。彼らは幼い時に母親を亡くしてて。
 父親は更にその前に消息不明になっていたと聞いてますから、
 その分、兄弟の中の良さに拍車が掛かっているんでしょうね」
ロイの話に、同感だとばかりにユーヘミアも頷く。
「なんて言うか・・・兄弟って言うより、まるで、そのぉ・・・。
 ―――恋人同士みたいな雰囲気があって・・・」
躊躇いがちに話した言葉に、目の前のロイの米神に青筋が浮かんだような
気がする。
「・・・まぁ、あながち外れてはないかと。
 私も昔は随分と妬かされましたからね、あの兄弟の仲には」
深い溜息と共に語られた言葉のトーンが、彼の苦い思い出を伝えてくる。

その後、特に話が弾む事も無く、コーヒーを飲み終わったロイは夜勤があるからと
キッチンから席を立って出て行ってしまう。
行きがけにエドワードに挨拶をと部屋へ寄ったようだが、「寝ているから」と
アルフォンスに告げられ、スゴスゴと出勤して行った。


夕刻には良く寝てすっきりとしたのか、エドワードが元気に起き出して来たが、
准将が夜勤で居ないと知ったアルフォンスは、介護を名目にその日も
泊り込むことを決めたらしい。

おかげでユーヘミアは、ロイが語った苦々しい思いと同様の気持ちを
味わう事になるはめになったのだった。
事細やかな、献身的なアルフォンスの面倒見ぶりは驚くばかりで。
しかしそれよりももっと驚かされたのが、そんなアルフォンスの行動に
全く疑問も持たずに受けているエドワードの様子だった。
兄弟と言えども、過激なほどの過保護ぶりにも何とも感じていないエドワードは、
やはり、かなりの大物なのだろう。






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